「Le Meraviglie」(夏をゆく人々)、ヴィヴィアン・マイヤー、そして失敗について

展示コンセプト

  「・・・この世界は終わろうとしている」このことばひとつで映画は俄然輝いてくるのだった。映画Le Meraviglie(メラヴィリエ=不思議、奇跡、驚き。ちなみに日本語版題名は「夏をゆく人々」)の主人公の父がテレビに映されたほんの一瞬で言うことばである。そしてエンディング、この父親が主人公のジェルソミーナに買ってきたラクダを映すカメラが一回りする間に、この一家の家は誰も住んでいない廃屋になっている。いや、この物語自体が存在しなかった、あるいはもうとうになくなってしまった物…

モネは何を見た?ー晩年の連作をめぐって

美術関連

モネはジヴェルニーの庭がどのくらい見えていたのだろうか? 今回のモネ展には、1923年に白内障の手術をしたあとの視覚異常を矯正するための眼鏡が展示されているが、ここにリアルな説明が加えられている。そこには「左目のレンズは、左右の眼の見え方の違いから生じる二重像を防ぐため、不透明になっている。右のレンズは手術を行った眼のために少し黄色にしてあり、分厚い凸レンズになっている。黄色は青が強く見える状況を改善し、さらに以前より光をまぶしいと感じる問題を解消してくれるものとなった。」…

私が生まれたとき・・・Part2(展示風景も含む)

日常

他にもたくさんの文とドローイングがあります。たった2日間の展示ですが多くの人に見ていただきたいと思っています。(なおドローイングの下に掲示した文章はキャプション覧の都合上段落が詰めてあることをご了解ください。) また冊子のデザインはデザイナーの大橋麻耶さんにお願いしました。表紙カバーの薄紙を広げると巻頭のドローイングがでてくるつくりとなっています。鉛筆の灰色の質感がうまくでているので会場でお手に取ってご覧ください。

私が生まれたとき・・・Part1

美術関連

 明日8月8日(土)と9日(日)の両日にわたって「ムサビる!」のなかの一環として「対話ー私が生まれたとき・・・」が展示されます。「大きいゴジラ、小さいゴジラ」もここから生まれました。 今回の展示の趣旨文はすでに展示情報にアップしてあるので、ここではそれ以外の文とドローイングを少し紹介します。会場ではふたつの椅子が対峙し、片方にドローイングと手に取って読む文章のコピーがありますが、それは再現できないのでそのセットをここにのせます。 長尾さんは自分が生まれた戦争時のことを書いて…

上海の画家、曲豊国さんのこと

授業

   中国上海の画家、曲豊国さんが訪問教授として武蔵野美術大学の油絵学科に一週間滞在し、講義と指導を行った。2012年の「上海、ムサビる!」で私たちが上海を訪れた際に彼ら上海で活躍するアーティストのスタジオを見せてもらったが、およそ300平米はあるかと思える広い空間で巨大な絵をつくっていたのを思い出す。そのとき曲さんは世界地図のような画面の上に線を施す作品をつくっていたが、最近作はその線での絵づくりは変わらないものの、より複雑な色彩が見えてくる重層的な作品展開になっている(…

LA、NYの美術館で感じたこと-KAKEHASHI Projectに参加して

日常

 国際交流基金のKAKEHASHI Projectで11日間、学生とともにロサンゼルス、プロビデンス、ニューヨークを回ってきた。訪問した美術大学はRISDやPratt Instituteなど4校、その報告は大学ですでにしてしまったのでここでは美術館で感じたことを中心に話を進めたいと思う。  トーマス・デマンドはすでに東京都現代美術館での展示があったから多くの人が知る作家だと思う。紙で克明に現実の場をつくる作家である。この人の作品に「Pacific Sun」という映像作品があ…

「ダブル・インパクト」と「若冲と蕪村」

美術関連

 芸大美術館での「ダブルインパクト」展とサントリー美術館での「若冲と蕪村」展を見ていると、日本の美術教育は大きな錯誤のもとでなされてきたのだという思いを強く感じる。こちらの勉強不足もあろうが「なぜ、こんなにいい作品をもっと早く見せてくれなかったのか?」という疑問が絶え間なく襲ってくるのだ。  前者の展示は芸大所蔵作品とボストン美術館所蔵作品の“ダブルインパクト”によっているから、そのボストン所蔵品は日頃あまり目にすることはない。しかしこの中に日本美術の本当のすごさを持つ作品…

ゴダール「さらば、愛の言葉よ」犬、言葉、そしてここ

日常

 誤読と誤解を引き出す作品はやはりいい作品なのだ。だからひとつの解釈を受け取るように誘導していないこの映画は、つまりどう解釈してもよく、そのような意味でこの作品はこの上なくいい映画なのだと思う。思わずだれかに書きたくなるような、言いたくなるような、今までのゴダールの映画の中でもとりわけわかりやすい映画なのではないかと思う。  それにしてもゴダールがなぜ3Dなのか?という疑問があるにはあった。それが最初のほうのショットで氷解する。「ググるな・・なんとかかんとか」と言うline…

2015、卒、修了制作から

美術関連

 今年も卒業制作・修了制作の季節がやってきた。学内の展示から印象に残った作品のいくつかをとりあげていきたい。とりあげる作品はどうしても絵画が中心となり、展示会場にあったインスタレーションやパフォーマンス、映像などが少なくなってしまうが、それはこの科の主要な現れとして見ていただきたい。ここではいつも絵を描くことをまず基本におきながらそこから多様な展開を模索してきた経緯がある。そして今年は例年以上に絵画のさまざまな可能性を感じることができた年でもあった。  なかでも強く感じたの…

アート&コミュニケーションゼミについて(研修会での発表から)

授業

  武蔵野美術大学が平成24年度のグローバル人材育成推進事業に採択されてから2年余が経つ。(タイプB(特色型))  当初はその意味、意義をめぐって様々な意見も飛び交ったが、最近はいくつかの実践を通じてそれも落ち着いてきたように思う。以下にあげるのはそれに関連したひとつの授業をめぐっての、個人的感想も含めた経緯である。美術の制作現場からのこうした授業の試みはあまりないのだろうと思う。単なる英語の勉強でなく、アートの意味やコミュニケーションをめぐる問題として、多様性をさぐる論議…