C通信56. 1986年チェルノブイリ原発事故処理作業者と鉛の棺 Chernobyl radioactive worker, lead coffin

C通信

  彼の名前はミハイル・フルジャノフスキーといった。なぜこのローマに来たのか、聞くとそのいきさつには1986年のチェルノブイリ原発の爆発事故が絡んでいることがわかってきた。彼はその当時40歳で原発労働者の街プリピャチで小さな家具職人をしていたが、当時仲のよかった友人が事故処理作業者(リクビダートル)となってぼろぼろに働き死んでいったことを目の当たりにした。国の危機を救うという使命感もあったのだろうが、多くの作業者がその危険をよく知らされずに作業にあたり、そ…

C通信55.2000年ローマのロシア人詐欺師 Russian con artist

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銀河系ができたのが136億年前、太陽や地球は46億年前。バクテリアがそこに生まれたのが20億年前。その時間に比べれば生物の生と死のくりかえしはほんの最近のできごとにすぎない。数百万年に及ぶデボン紀の“波打ち際”での生物の死があり、陸に上がる生物たちのあるものは海に引き返し、あるものは陸に上がった。ラスコーの祈祷師はまだ人間ではなく、その死さえもない。死ははらわたを出した野牛のほうにあった。人間が死ぬようになったのはそれからのことである。 2000年、ローマ在住のロシア人詐欺…

C通信53. 植物になる  Become a plant

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多くの人間が植物として生きることになった。 それは、頭をもたないアセファール宇宙人(C通信.47)への対抗から発生したものだった。“かたち”がなく、見かけは“ご当地キャラクター”に見える宇宙人から身を守るには、こちらもかたちを失うしかなく、まず視覚を失うことでその第一歩を踏み出した。しかし、かたちを失うことはそう簡単にできることではない。ひとつの過程として植物人間になることを選んだ。 もうひとつの理由は、不死を生きるためであった。正確に言えば不死ではなく、死ねない時代を生き…

C通信49. 地球外生物 Extraterrestrial

C通信

宇宙人アセファールはかたちをもたない。感情も持たない。記憶ももたない。そして変化する。つまり地球人と交信不可能だ。一応着ぐるみのなかにいて外見上のかたちは保っているが中身のほんとうの姿はわからない。ところがそれは確実に変化する。そのように見せるところがアセファールの最大の能力なのかもしれない。地球人はそれを見て変化ととらえる。変化とは、あるかたちが変化し、はじめのAという文脈がBという文脈に変わることでそこに意味を見つけるからだ。ところがアセファールに意味はない。もともと交…

C通信50.-時間旅行、ほんとうの過去は未来の中に Time Travel

C通信

『ほんとうの過去というものは未来のなかにしかありません。それはうしろではなくまえにあるのです。ですから「記憶にない」ということばは「記憶がない」という病理でもなく、ただ過去を目前に蘇らせたくないだけのことで、つまりは自分の未来を否定し、いまの生を否定していることになるのです。未来とは何でしょうか?たとえば、あなたがカメラを見て微笑んだときのそのまなざし、そのまなざしはたしかに未来の誰かに向けられているのです。はるかなそのとき、あなたは死者としてその誰かの前に現われることでし…

C通信49.-ウチュウジン Extraterrestrial

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私は不死の世界から戻れない。あたりにはパウダー状の乾いた血が絶えず流れている。殺戮が始まった。 アセファールはかたちをもたない。感情も持たない。記憶ももたない。そして変化する。つまり地球人と交信不可能だ。一応着ぐるみのなかにいて外見上のかたちは保っているが中身のほんとうの姿はわからない。ところがそれは確実に変化する。そのように見せるところがアセファールの最大の能力なのかもしれない。地球人はそれを見て変化ととらえる。変化とは、あるかたちが変化し、はじめのAという文脈がBという…

C通信46- Uさんとの邂逅、がらんどうの目 Mr.U and the empty eyes

C通信

そこは半島の突端のようなところだった。崖と浜に挟まれた下り坂の道を進んでいくと上り坂になって町に入るようになっている。ぼくと宇佐美さんはいまスクーターに乗って突端にある町の城塞をめざしているのだ。なぜかというと、その城塞から何人ものひとが空中に浮かび、空のほうに吸い込まれていくのが見えたからだ。ぼくはすでに坂を降りて上り坂にさしかかっていたが、宇佐美さんはまだ下り坂をおりていない。だからぼくの前には宇佐美さんの姿は見えないが、夢のなかでは宇佐美さんがスクーターに乗って走る後…

C通信42.- さかさの波  Wave inversion 

C通信

ようやくそれを登り切ると、目の前には波?…さかさの波のようなものが現われた。 股のぞきをしてみると、たしかにそれは浜に打ち寄せる波だった。 波はくだけ散りながら、さまざまなひとの顔を散らし放った。それらはしぶきから生まれでてくるようにも見えるのだが、じっと見るまもなくすぐに消えてなくなった。これが延々と繰り返された。