天草地方に若い兵士の石像がいくつかある。保存会の話によると、出征した兵士の姿がそのまま残されているという。地元の石工によって、日中戦争に出征したそのひとをなぞるようにつくられた石像で、苔や地衣類に覆われているが、その顔などを見ると若くてまだあどけない表情をもっている。20代そこそこに出征したのだろう。直立不動でかなたを見ている。似ているから身近な人が見たらどこそこの誰さんとわかるらしい。10数体あるが、その多くが凝灰岩でできている。戦地に散った市井の戦士の像。これは神話の像ではない。生々しい現実の死者の姿であり、その記憶は石と化してゆっくり朽ちていく。