C通信71. この惑星に、生者がいなくなっても死者はいる。No life here. Plenty of dead.
・・・同時に時間を組み立て直した。少なくとも線の時間を解きほぐし平面上にばらまいた。その時間のチャートでは生者も死者も同じところにいる。かたちのないところから見れば、かたちがあるのはほんの始まりの一瞬のように、死者から見れば、生者も始まりの一瞬なのだ。この惑星上に生者がひとりもいなくなったとしても、死者はいる。 星座に手を
・・・同時に時間を組み立て直した。少なくとも線の時間を解きほぐし平面上にばらまいた。その時間のチャートでは生者も死者も同じところにいる。かたちのないところから見れば、かたちがあるのはほんの始まりの一瞬のように、死者から見れば、生者も始まりの一瞬なのだ。この惑星上に生者がひとりもいなくなったとしても、死者はいる。 星座に手を
カメよりも小さいウラシマタロウは玉手箱なぞもっていなかった。しかしその手にはひとつの石が握られていた。 ところで、われらのウラシマタロウはどこからやってきたのだろう?そしてウラシマタロウとはなにものなのだろう? 浦島太郎が“助けたカメにつれられて”竜宮城に行ったことはよく知られているが、われらのウラシマタロウは海で肺に海水が入り死んでしまったひとなのだ。海で溺れ、肺呼吸ができなくなったのである。だから津波にのまれた大川小学校の子どもたちも、「肺にガラス片が入ったようだ」と言…
競技場には死者のたましいが渦巻いている。それは古代ローマのコロッセオ以来、ずっと続いていて、静かにアスリートを見守っている。観客のどよめきに混じって彼らのどよめきも微かに聞こえよう。最も輝かしいボディーをもつ生者とともに露と消えた死者がそこに集っている。 海の向こうでは殺戮が始まっている。バラバラになった身体は大きな暴力に対抗する。 ドロに目を コンクリートに足を
新国立競技場の前には国立競技場があり、その以前には神宮外苑競技場があった。2021年10月21日から時間を後ろ向きに遡ること78年、ここで学徒出陣の壮行会があった。時間を競うところで、個々の人間の時間を奪う壮大な儀式があった。時間の収奪は生身の肉体がつくり出す一切の距離を奪い、そのまま理不尽な死へと直結させた。 スポーツの根底にはひとのもつ暴力志向がある。近代スポーツはそれを競技というかたちで死の危険から遠ざけてきた。かつてイタリアのある都市で見た古式サッカーはほとんど暴力…
オレたちは新しい身体を見た。そこでは、すべてが前に進みながら同時に後ろにさがっていくことに気がついた。 二番手の選手は遅かったわけではなく、時間を、少しだけ後ろ向きに進んだだけなのだ。 ところでいったい競技場はなにを競うところなのか? 時間? コンマ0何秒という時間は、競技者の肉体とむすびつくと数センチという距離となる。
流星の光の線は、からだの動きにつれてその軌跡を黒天に印した。
オレたちは夜の暗闇にいる。しし座流星群から燃える四肢が降ってきた。 「バラバラの四肢をあつめて新しいサイボーグをつくろう・・」 オシリスはイシスによってバラバラのからだを集められ、再生をはたした(イシスはオシリスの遺体をつなぎあわせて呪力で交わり、息子のホルスを身ごもる)が、ここは生者と死者の見分けがつきにくく、したがってその再生もない。 生者となるためにはバラバラのからだのパーツを集めてサイボーグになることしか道は残されていない。サイボーグは生者になり、そうしてはじめて死…
ここでオレたちの前に、ふたたび不死の人<C通信57. Immortal 不死のひと>が登場する。この老人の証言はこうだ。「わしが見たのはローカルな駅、たとえばカワゴエとかタジミとかナルトのような駅のホームでおこったできごとなんじゃ。列車が止まっていてわしはそのなかにいるんじゃが、それがなんと怒鳴り声や威嚇の声であふれていてな、みんなナイフ、割り瓶、こん棒を手に手にもって“敵”をやっつけようとしているところらしいのじゃ。でもなんかその人たちは肌の色が褐色がかっていてな、よく聞…
数量化は明らかな失敗だった。時間の前後とその量ができてあらゆる計測も可能になったが、それがどういうものかわかった気になっただけで、重要なことはなにひとつわかってはいなかった。時間の数量化など、土台無理な話であった。 オレたちがそこで見たものは一見平面的にも見える時間図だった。2次元的に展開されているようだが、これも正確に言えば数学的な2次元のものではなく、例えて言えば生きたイカの表面に現れる動く光子模様のようなものであった。それは一瞬と無限が一緒になり、あらゆるできごとの点…
ロシアの詐欺師の、目に止まらぬ手さばきの一瞬は、死んだ原発事故処理作業員が入れられた鉛の棺の10万年に匹敵する。計測可能な時間は個人にあっては何の不都合もなく伸縮し、その一瞬にこそ永遠が宿るのだ。 &nb…