C通信10.-未来の記憶 Memories of the future

C通信10.-未来の記憶 Memories of the future

2020年4月13日

声が聞こえてくる。大きな声ではなく弱々しい声がそれぞれのコロナスーツの中に響き渡っていた。

「不自由をみずからのものに… もっと暗闇を… もっと引きこもりを… 選ぶのではなくくじ引きを… もっと笑いを… もっとことばを… もっとストライキを… 政治家ではなく政治を… ギャンブルではなく命を賭けて… 」

 カコ?

 それはいつのことだろう?

キオクが飛んでしまっているからわからない、というか自分というのもわからない。

未来の記憶ならある。今から遡るのか進むのか、千年以上もあとの世界。

人類は度重なるウイルスの攻撃に会い、ついに自らもウイルス化するように身体を失った。遺伝子とイメージ情報は常時保持しながら、めんどうくさい体のことは完璧な無菌室に置いた。そうして地球を去った。

 それを見た記憶はある。自分は地球を去らなかったからだろう。一定数のひとは身体を保持したまま地球に残ったが、それらは人間というより動物に近い存在としてだった。動物たちの四つ足は地球の時間を感じ、宇宙の時間に通じていた。滅びやすいがウイルスと同じ時間のなかにあった。