C通信70. 時間と石(ウラシマの帰還) Time and stone-URASHIMA TARO 

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カメよりも小さいウラシマタロウは玉手箱なぞもっていなかった。しかしその手にはひとつの石が握られていた。 ところで、われらのウラシマタロウはどこからやってきたのだろう?そしてウラシマタロウとはなにものなのだろう? 浦島太郎が“助けたカメにつれられて”竜宮城に行ったことはよく知られているが、われらのウラシマタロウは海で肺に海水が入り死んでしまったひとなのだ。海で溺れ、肺呼吸ができなくなったのである。だから津波にのまれた大川小学校の子どもたちも、「肺にガラス片が入ったようだ」と言…

C通信69. ドロに目を コンクリートに足を Give eyes to the mud

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競技場には死者のたましいが渦巻いている。それは古代ローマのコロッセオ以来、ずっと続いていて、静かにアスリートを見守っている。観客のどよめきに混じって彼らのどよめきも微かに聞こえよう。最も輝かしいボディーをもつ生者とともに露と消えた死者がそこに集っている。 海の向こうでは殺戮が始まっている。バラバラになった身体は大きな暴力に対抗する。 ドロに目を コンクリートに足を

C通信68.時間を奪う Confiscated time

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新国立競技場の前には国立競技場があり、その以前には神宮外苑競技場があった。2021年10月21日から時間を後ろ向きに遡ること78年、ここで学徒出陣の壮行会があった。時間を競うところで、個々の人間の時間を奪う壮大な儀式があった。時間の収奪は生身の肉体がつくり出す一切の距離を奪い、そのまま理不尽な死へと直結させた。 スポーツの根底にはひとのもつ暴力志向がある。近代スポーツはそれを競技というかたちで死の危険から遠ざけてきた。かつてイタリアのある都市で見た古式サッカーはほとんど暴力…

C通信67. 新しい身体、または時間を後ろに進む New body or time going backwards

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オレたちは新しい身体を見た。そこでは、すべてが前に進みながら同時に後ろにさがっていくことに気がついた。 二番手の選手は遅かったわけではなく、時間を、少しだけ後ろ向きに進んだだけなのだ。 ところでいったい競技場はなにを競うところなのか? 時間? コンマ0何秒という時間は、競技者の肉体とむすびつくと数センチという距離となる。

C通信64. しし座流星群からの贈り物 Gifts from Leonids

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オレたちは夜の暗闇にいる。しし座流星群から燃える四肢が降ってきた。 「バラバラの四肢をあつめて新しいサイボーグをつくろう・・」 オシリスはイシスによってバラバラのからだを集められ、再生をはたした(イシスはオシリスの遺体をつなぎあわせて呪力で交わり、息子のホルスを身ごもる)が、ここは生者と死者の見分けがつきにくく、したがってその再生もない。 生者となるためにはバラバラのからだのパーツを集めてサイボーグになることしか道は残されていない。サイボーグは生者になり、そうしてはじめて死…

C通信65. TRAIN

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ここでオレたちの前に、ふたたび不死の人<C通信57. Immortal 不死のひと>が登場する。この老人の証言はこうだ。「わしが見たのはローカルな駅、たとえばカワゴエとかタジミとかナルトのような駅のホームでおこったできごとなんじゃ。列車が止まっていてわしはそのなかにいるんじゃが、それがなんと怒鳴り声や威嚇の声であふれていてな、みんなナイフ、割り瓶、こん棒を手に手にもって“敵”をやっつけようとしているところらしいのじゃ。でもなんかその人たちは肌の色が褐色がかっていてな、よく聞…

C通信63. 時間図 Map of time

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数量化は明らかな失敗だった。時間の前後とその量ができてあらゆる計測も可能になったが、それがどういうものかわかった気になっただけで、重要なことはなにひとつわかってはいなかった。時間の数量化など、土台無理な話であった。 オレたちがそこで見たものは一見平面的にも見える時間図だった。2次元的に展開されているようだが、これも正確に言えば数学的な2次元のものではなく、例えて言えば生きたイカの表面に現れる動く光子模様のようなものであった。それは一瞬と無限が一緒になり、あらゆるできごとの点…

C通信62. 一休さんと<遠近法 vs 縮地法>

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   ロシアの詐欺師の、目に止まらぬ手さばきの一瞬は、死んだ原発事故処理作業員が入れられた鉛の棺の10万年に匹敵する。計測可能な時間は個人にあっては何の不都合もなく伸縮し、その一瞬にこそ永遠が宿るのだ。                       &nb…

C通信61. 思考は光速よりも速し Thoughts travel faster than light

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オレたちが零下40度もあるひとウサギの部屋に到達したのは2020年の4月のことであった(C通信11.回廊)それからあっという間に時間が過ぎ去り、すべてのひとが老いた。 ひとウサギのことば「ここは死者のこたつです。オマエらはここには入れない。なぜならばボディーを持っていないからだ。早く出て行け!」はまだ解けない。 植物だけがアンテナを張って成長し、不死の街は静まり返っている。 思考は高速よりも早い。現実にはありえない光年のかなたに、老いた者がたどりつくことがある。加えてその者…