C通信36.- 走る Run

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  おれたちはキートンのように走りまくった。空気を体に感じるために、ひたすら走った。そうすると目の前に過去が現われ、後ろに未来が遠ざかっていった。 ドローイング(キートンの「セブン・チャンス」から) 動物は管を横にして(地と平行にして)走る。獲物を捕るために。植物は管を垂直にして太陽と地球を結び、光合成の光を得る。人間の走る行為は、そのどちらでもない斜めのベクトルを描く。

C通信35.-垂直 Vertical

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動物と違い、人間の体を貫く管(口から肛門まで)は地に対して垂直である。植物も垂直に延びている。               そしてロケットも垂直に飛び立つ。 これらの垂直は何を目指しているのか?

C通信34.-解剖図 Anatomical drawing

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1774年、小田野直武は「解体新書」の木版付図の下絵を描く。秋田蘭画の代表作「不忍池図」で知られるあの直武である。「解体新書」は原著の「Anatomiche Tabellen」(解剖図表の意)を杉田玄白、前野良沢らが翻訳したものであるが、俗称で「ターヘル・アナトミア」と呼ばれた。 平賀源内の意を受けて、直武はこの解剖図の写しをやることになったが、もともとは銅版画による図譜である。それを彼は面相筆で丹念に写し取って木版の下絵をつくった。ひとつひとつの線や図に、今まで知らなかっ…

C通信33.-ロケット Rocket

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Rocket 2200     2200年に打ち上げられたロケットが17000年前のラスコーの洞窟に描かれていた。 未来とは曖昧な過去のことである。

C通信32.-宇宙飛行士のミイラ、ラスコーのロケット Time capsule astronaut mummies

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カプセル状の物体に包まれたミイラは、短いスパンの時代のなかでは「古代文化の遺産」とされたが、千年万年という時間のなかでは、地球から出発して再び帰還した宇宙飛行士のミイラであることが定説となった。23で触れた宇宙船「オリヅル号」の乗組員であることがわかったのも、巻いてあった布に付着していたDNAの分析からだった。この時代はまだ宇宙飛行士は肉体を持っていたのである。だから死が厳然としてあり、ミイラになることもできた。それから数千年も経った時代の飛行士は肉体がなかったからミイラに…

C通信31.-不死の時代、あるいは死ねない時代 Immortal era

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万年あとの記憶Ⅱ、 多くのひとが永遠の生を夢見た「不死の時代」は到来しなかったが「死ねない時代」はやってきた。「死ねない時代」とは、そもそも死というものが意識されなくなり、自分が死んでいるか生きているのかさえもわからなくなる時代のことである。そして現実にひとは簡単に死ねなくなった。 車の自動運転がスマートシティを呼び寄せ、度重なるウイルス禍の隔離生活でそれは一気にひろまった。テレワーク、監視カメラ、AIによる顔認識、データベースに集められた膨大な個人情報によって私権は制限さ…

C通信30.- 死者 DEAD

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   百年あとの記憶 11.3.2111 100年もの時間が過ぎ去った。その間、さまざまなできごとや災害が起こったが、なかでも忘れることのできないできごとは2011年3月11日に起こった大津波による大川小学校の小学生らの死と、2019年、20年から世界的な感染爆発が続いたコロナウイルス禍である。 できごとの記憶をたどるために、おれたちはまた塔のある場所に行った。ひときわ大きな2011の塔。そのまわりを多くの死者が取り囲んでいた。やがて死者たちは無言のままゆっくりと歩きだし、…

C通信29.-幽霊 GHOSTS

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ひとウサギ…死者のこたつ… そこに入ることを拒まれた…死者になりきれない… そうか、自分らは幽霊なのか…死者のこえを聞き、生者のつぶやきを聞く… 「わたしはここにいてもうすでにここにはいない」 「あなたの目に映ったものをわたしは見ることができる。遠い過去のことや未来のこと、わたしはそこにいないけどわたしはそこにいる」 「そのときの感情の波が押し寄せるとき、いつもそこに幽霊がいる」 「コロナウイルスでいきなり死んでしまった三つ年上の友人のKさん、家族に看取られることもなく苦し…

C通信28.- 肺の街 PNEUMOTROPOLIS

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万年あとの記憶 LUNG CITY 肺の街に着く。この一帯はあらゆる人工臓器をつくる街が広がっているが、この肺の街はそのなかでも最も重要なものだ。    肺の前身はエラであった。生物が海から出て陸地で暮らすようになるには、エラと原子肺を持った生物の数百万年にも及ぶ波打ち際での試行があり、その過程で多くの生命も失われた。あるものはそうしたなかで陸地で生きることに適応し始め、あるものはまた海に帰っていった。やがて陸で生きるようになった生物はエ…

C通信27.- ラスコーのはらわた A trail of entrails in Lascaux

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今から1万7千年も前のこと、ラスコーの洞窟壁画を描いた人たちは未来のことを想像しただろうか?人間が手術によって腸(はらわた)をさらけ出される目にあったり、またひとが自らのからだを自ら停止させてしまうことを思い描いただろうか? 否…けれども生とともに死は身近にあった。 「井戸状の空間」に展開された「絵」は過去の図であるとともに、どこか遠い宇宙の惑星の光景のようにも見える。時間はループする。野獣に襲われるグラディエーターの図が、現代のコロナウイルスによって襲われる貧困層のひとび…