私が生まれたとき、わたしはいも虫のようだった。
呼吸をしながら声を上あげ、声をあげながら呼吸をした。それがわたしのすべてであって、身動きもままならないいも虫のようだった。まだ、からだというものがなく、ただ呼吸する生きものだった。
そのうち手が生えてきた。手は一本で、食べ物をつかむためにそれを使うようになり、わたしは自分に手があることにふと気がついた。
それから長い長い夢を見て、夢のなかでわたしは初めて別の生きものを捕まえた。生暖かくて、懐かしいような、それでいてなにか自分とは違う別の生きものに出会った気がした。
わたしはその生きものを捕まえて離さなかった。
それを捕まえながらまた長い夢の眠りに入っていった。
目が覚めたとき、私は右手で左手を握っていた。私の捕まえた生きものとは自分の手だった。
こうして私は自分に手がふたつあることを初めて知った。
私はもういも虫ではなかった。自分の手を発見したからだ。
そしてまた眠りのなかで土をつかむ足の夢を見てそれから足を発見した。
私は眠りのなかで他の生きものをつかみ、地をつかみ目を覚ました。
そうして何年も生きてきた。