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 中国上海の画家、曲豊国さんが訪問教授として武蔵野美術大学の油絵学科に一週間滞在し、講義と指導を行った。2012年の「上海、ムサビる!」で私たちが上海を訪れた際に彼ら上海で活躍するアーティストのスタジオを見せてもらったが、およそ300平米はあるかと思える広い空間で巨大な絵をつくっていたのを思い出す。そのとき曲さんは世界地図のような画面の上に線を施す作品をつくっていたが、最近作はその線での絵づくりは変わらないものの、より複雑な色彩が見えてくる重層的な作品展開になっている(図参照)

 横線での流れは時々途切れ、パルスのようなあるいは心電図の色彩化のような感じもする。彼が言うようにその描く線がそのまま生の時間につながっているようでドキドキするようなところがある。これは西洋由来の抽象絵画ではなく、絵具をつける行為そのものをそこに示した、水墨画の流れを汲む現代の絵画と言えるかもしれない。もちろん抽象絵画のさまざまな影響はあるものの、曲さん自身が日本の美術への関心として河原温と宮島達男をあげていたのも納得できる点であった。

 彼は行為を刻む時間に関心を抱いている。かたちを抽象する西欧の抽象絵画の延長にあるのではなく、色の線を刻印する反復行為のうちにその絵があるのだろう。その考えそのものが中国からでてきたもので私たちが考える抽象絵画とは大きく違っているところがおもしろかった。

 

 課外講座では中国のアート状況について語ってもらった。1949年の中国の建国当時の時代感覚やその絵画についての説明から始まり、中国革命の指導者である毛沢東などを描いた社会主義リアリズム、そのあとの民衆の姿をそのまま描いていったネオリアリズム、そしてモダニズムの影響を受けた曲さんらの抽象絵画の現状まで、さまざまな画像を見せながら解説していった。モダニズムの時代の項目では日本の“もの派”や“具体”の影響が語られ、彼らの世代がいかにその影響を受けたかが語られた。

 そして現代、日本でもよく知られた馬六明などの作品の現代的な意味が語られた。それは社会状況と切り離せない特徴があり、しかもそれと呼応する個人の感情表現がある。個人的な感情の表現が長い間抑圧されてきた中国ならではの現代アートの一面が見えた。海外列強の支配からの解放と建国、そのあとの文革、市場開放など激動の時代を経てきた中国の美術は、その政治状況に敏感に反応しながら社会の中に確実に息づいている。

 

 中国ではモダニズムとコンテンポラリーが同居し、さらにそこに中国独自の思想が通奏低音のごとく影響を及ぼしているのを強く感じた。そのあたりが日本から見ると違った面として感じられるところだが、逆に見れば西洋美術の流れとは違うものを模索している結果とも考えられる。やはり曲さんの話を聞いていると日本の美術の流行というものが確実にあることを実感せざるをえない。自国の美術の歴史に強いプライドを持って西洋の論理とはまた違ったアートの世界を打ち立てようとしている彼らの意気込みを感じた。