KAKEHASHI Project は国際交流基金が外務省から受託している学生クリエーター交流事業のことだが、ムサビからの応募が採用されその最初のステップとなるロードアイランドスクールオブデザイン(略してRISD)の学生たち12名(プラス教員1名)が6月17日18日の両日大学を訪れた。一行はデザイン系とアート系の二手に分かれ、私たちファインアートのグループには5人の学生が来た。

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 はじめにその人たちの自己紹介と作品紹介を簡単にすませた後、一日目の予定になっている大学院の学生たちのアトリエを案内した。学生の作品を見ながら作品(主に絵画)について意見交換をしようというもの。英語で自分の絵の内容や考えをしっかり言える人から少ししか話せない人まで学生はさまざまであったが、時々通訳の人の力も借りながらの説明にRISDの学生たちは真剣に耳を傾けていた。

 アトリエにたくさん並んでいる作品のなかからいいと思うものをはっきり言うことや、質問をしながら話しを深めてい10407064_10154269255010175_741124410477306310_nく姿勢が印象的であった。現代的な絵画への興味は言うまでもないが、例えばある学生の日本的なくすんだ色のおもしろさにみんなが感心したことや、日本の古い光景を描いた絵に共感したことなどに、絵で分かりあえることの大きさを実感せずにはいられなかった。

 途中、休憩も兼ねて豆腐パーティーをやり、大きなざる豆腐を20人くらいそれぞれの皿に盛って食べた。もちろんアメリカでも豆腐はポピュラーだがその時のものは特別なうまさで、みんなが“おいしい”を連発しながら食べ、ちいさい話の輪がいくつもできて盛り上がった。またここでは学生たちが持ち寄った日本特有のものをそれぞれ英語で説明した。古いマッチ箱、招き猫、お正月の招福稲穂、フィギュア、線香花火、折り紙、人気キャラのコスチューム、地下足袋などなど、私たちにとっても今では新しく感じるものも多く、その説明が新鮮に感じられた。

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 二日目は写真、これはあらかじめRISDの学生たちに“日本に来て印象的なものを写真に撮って”とお願いしてあり、画像メモリーを一日目に提出してもらい、そのプリントアウト写真を撮影者の学生が説明するというものである。これが意外におもしろかった。

 マクドナルドの配達の箱(これは東京でもあまり見ないがどうなのだろう・・)に興味を持った人、小さいお地蔵さんの意味を尋ねた学生、それから炎を背景にした赤い不動明王の意味を聞いた学生などなど。

 不動明王には煩悩を焼きつくす忿怒の意があるが、その顔が赤いということからアメリカの人種問題まで話が広がった。メジャーリーグのインディアンズのマスコットキャラクターは赤い顔をしたインディアンの顔で有名だが、これをめぐってインディアンの権利団体が人種差別であるとして訴え、論争がおきたことが紹介された。(現在はCのロゴマークに変更)

 また、一人の学生がアフリカ系アメリカ人で、作品のポートフォリオに自分の歴史のルーツでもある奴隷制を扱っていたので、そのことを指摘すると、アメリカでの顔の色の表現の微妙さや、年代によって違う人種差別の捉え方の違いなどにも話が及んだ。別の一人の学生は、自分のルーツが移民なので、常にそのことを意識すると言っていた。(アメリカは移民の国だから当たり前と言えば当たり前だが・・)

 この辺りの話は日本の学生にとっては想像つかない話であったかもしれない。少なくとも身近な問題ではないだろうが、米国の学生たちにとってはいつも身近で起こる切実な問題であることを感じさせた。私たちの思考の単一性がちらっと垣間見えた一瞬である。

 話は緊急消防ホースの収納箱にこどもの消防士が描かれている図柄の写真に飛び、米国では緊急のものにそういうのが描かれることはないこと、なぜこどもが描かれるのかに話がおよんだ。日本のこども中心文化の特徴、成熟をよしとせず、老いたら終わりと思うがゆえの若者文化の盛んさも指摘された。

 また“かわいい”という言葉に関して米国では変な顔をしたブルドックのようなものも可愛いとすること(キモカワに近い、日本でも程度の差はあれ同じ)、日本の“かわいい”という言葉をみんなが知っていることやその人気ぶりも語られた。

 ともかく一枚の写真から日米の意識や環境の差があらわになってくるのはとてもスリリングな瞬間だった。これはこちらの企画がうまく機能した例ではないかと考えている。

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 それから日米マンガ対決も、もう一時間ぐらい時間欲しかったと学生が言っていたくらい盛り上がった。RISDの学生たちはよく日本のマンガキャラを知っていてすぐさま反応してくれたが、この企画はもともと油絵学科の教室で絵画作品とならんで、ホワイトボードにびっしり描かれたマンガがあることにヒントを得た。とにかくボードに限らず学生たちはマンガや落書き(グラフィティ)をよく描く。これが更新されて次々に変わっていく様子はまるで生きたツイッターボードである。これなどは動画に撮ってあると面白かったが誰も描くのに熱中して撮らなかったことがまたファイン系らしい。

 限られた時間が迫るなか、最後のディスカッションとして「ゴジラ」展示に移動した。そもそもゴジラはアメリカの「キングコング」(1933年)や「原子怪獣現わる」(1953年)に影響されてできたのである。またビキニ環礁での米国の水爆実験によって古代の生物が怪獣化したことや第二次世界大戦の日本人戦死者の亡霊、大災害の象徴、あるいは破壊願望とも言われていることを話し、日米のゴジラの違いも話した。ゴジラこそまさに日米の架け橋なのだ。RISDの学生にとって必ずしも心地よい話だけではなかったと思うが、これがかえってよかったように思う。歴史や社会状況なしに“純粋に”美術が成立してしまう日本と、そういうことが普通に入り込んでくる米国との違いがあるように思う。

 ゴジラは“着ぐるみ”という問題から日本と米国のリアリズムの違いにまで話を進めたが、あっという間に時間がたちもう学生たちの帰る時間が迫っていた。時間があれば着ぐるみから文楽の人形遣いのことまで話がいくと見込んではいたがそこまでは至らなかった。

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 最後に日本の学生、RISD学生の順で感想を話してもらった。RISDの学生たちは一様に、日本に来た9日間でもっともよかったこと、神社や伝統的な日本のものもいいけど、最後にやはり人間どうしでふれあうことができて深い話もできて一番よかったと連発していた。これだけおもしろい交流ができるのだったら最初にこの企画を体験してから観光地や伝統産業見学をしていたならもっと日本のことをよく知ることができたのに残念だ、という意見も多かった。

 このあたりの話は少し感情があふれてきた感じもあり、聞いている他の学生たちも動かされて少しウルッと来た感じであった。10395836_10154269281750175_8652348493036813678_n

 最後に日米のゴジラどっちが好きかと聞いたらやはり日本のゴジラだったのでお土産にフィギュアを一体ずつあげた。彫刻のひとりの学生が第二段階ゴジラ(第一段階が溶けて少しずんぐりのもの)を選んでいたのがおもしろかった。

 二日間、おおよそ5つの企画を実施しそれぞれがうまく機能した。これらはすべて連動している。これをもとに、今度はこちらの学生が米国に行って交流を深める予定だ。今から楽しみである。