波戸岬に行ってきました。

 佐賀県の美術教員が主催する美術・工芸講座に参加するためです。

県の美術・工芸高校の学生を対象に7時間(!)のワークショップをやるということや、場所が「波戸岬青少年自然の家」という研修施設ということで尻込みしかけたのですが、よくよく地図を見るとそこは玄界灘に面する九州の突端の地で、「グランブルー」のジャック・マイヨールも来た海があること、透明なイカ料理、有田、伊万里が近い、まだ一度も行ったことがない、などなど好奇心を刺激する要素が多くあり、行ってみよう、という気になりました。

 まずは透明なイカ、お皿の上でまだ生きていて表面の点々が液晶画面のように刻々と変化するのです。これには驚きました。液晶というのが以外と生命体に近いということなのかもしれません。

 さてワークショップは翌日の9時から始まりました。まず手始めにリンゴをいろいろ描いてもらいました。大学では「リンゴの10モード」で通っている課題で、ものの見方の多様性を探る課題ですがここでは本番のための“助走”として取り上げました。1時間ほどしてさていよいよ本番。ここで約30人の生徒たちを3つのグループに分け、それぞれのところにはムサビからつれて行った学生にファシリテーターとして入ってもらいました。RIMG0158

 お題は「大きいゴジラ、小さいゴジラ」の佐賀バージョンとしての「自分たちの思いをゴジラを通して表現しよう」というものです。最初にゴジラの歴史もさらりと説明しましたが、学生三人のうち二人は同名のワークショップに関わった当人たちで、もう一人は絵もマンガも得意な学生とあって中学生らとの話し合いも順調に進み、グループごとの制作方針も決まってきました。あとはいかにして違った意見をひとつの制作物としてつくりあげるか、個々の違った感性をどれだけ作品に反映させるかが問題です。

 RIMG0148第一のグループは紙ついたてのゴジラを作りました。なかなかひとつにまとまらなかったのですがひとつの様式を沢山作る方向でまとまってからかなり多くのついたてができました。第二のグループはそれぞれの思う色をひとつは背景として混ぜ合わせて塗り、次に新聞紙で作ったゴジラのレリーフにちぎった色を鱗状に貼っていきました。吹き出しには生徒たちが日頃思っていることを書いています。第三のグループはゴジラの絵と新聞で見つけた見出し文字を組み合わせて展示しました。見出し文字が全く違った文脈でそこに成立してしまう面白さがあり、言葉と絵の組み合わせに意外性がありました。

 作品を作り終えたのが午後3時半頃。さてそこからがワークショップの最も重要なところに触れる時間です。

 それぞれのファシリテーターの意見と感想に引き続いて参加した生徒のひとりひとりにやってみて感じたことを話してもらいました。もちろん私の意見も言いましたが重要なのは参加者がそこで何を感じ何を言葉として話すかです。

主人公は制作した生徒や学生ですから、ここでは先生はその引き立て役に過ぎません。話のひとつひとつに耳を傾けることが重要です。子供はこちらが聞く気になれば話すものです。ま、こういうことはムサビの中でもやっていることですからこちらも楽しんで聞いていました。あといつも制作物には名前を入れるようにしてお願いしています。それは共同制作ではなく、個々の思いが詰まったものだからです。一人一人は全く違った考えだけれど、制作では手を握る。これはきわめてサッカー的発想に近いものです。

 翌日はまとめの話。最初にワークショップは一方向の教育ではなく、双方向の教育志向を持っていることを話しました。その場を作ることが重要で、美術教育はむしろ従来からこういうやり方をとってきたことを話しました。それからなぜ人間は困難さに直面したときにものをつくったり描いたりするのかということを話しました。それはマイナスのものをプラスのものに変化させる術であり、美術や芸術の“術”の意味はこのことにあるというようなことを話しました。何人かの目がキラキラ輝いていました。

 今まで何回もワークショップをやってきましたが、それはいつも自分の展覧会と一緒で今回はちょっと事情が違いました。“ゴジラ”も作品には違いないのですがここでの主役は高校生です。難しさはあったのですが、彼女彼らが何らかの思いを持ち帰ってくれたのではないかと思うとこうした形式のワークショップも悪くはないなと思えてきました。

 佐賀のみなさんには本当にお世話になりました。