わたしの個展のあいだに宇佐美圭司さんが逝去されました。宇佐美さんはわたしに「ムサビに来ませんか?」と言ってくれた人で、そのときの電話は今でも覚えています。丁寧さと率直な話し振りに、はじめは学生かと思ったものです。

 それからの付き合いは、油絵学科での絵の話やBコース(現代美術系)の確立などいろいろあるのですが、わたしが思い出すのは裸の宇佐美さんの姿です。と言っても、それは正確には水着姿のことです。彼は吊るしのジャージーを着て大学に来ました。そして助手の岸本くんやわたしと一緒に津田塾大の近くにある小平市民プール(温水)に行ってよく泳ぎました。

 また初めて福井のアトリエにお邪魔した時は、海岸下の海に入り素潜りで魚を捕ったのです。そのとき彼の用意した銛(もり)はさきがよく磨いてあり、使い込んだ様子が見て取れるもので長さも3メートルぐらいありました。それでついた魚を海から突き出して笑った姿を忘れることはありません。(ゲストハウスに泊まった夜は爽子さんの提案で、わたしの妻も含めて4人、道の端に寝転んで満天の星を見たのです。)

 福井のアトリエは瓦の材質の床暖房で、宇佐美さんはそこで裸足になって踊ると気持ちいいと言っていました。これはもちろん裸ではありませんが、彼がよくむちゃくちゃな踊り(これがすごい)をするのはよく目にしていたので、裸足と床暖房が妙にしっくりあってイメージしやすかったことを思い出します。宇佐美さんは知的だとよく言われますが、それ以上に肉体でものごとを切り開くことのできる人でした。

 そういう人がもう全くいないというのは本当に信じがたいことです。声、笑い、長髪を振り乱した姿がこちらの頭のなかに確かに存在するのにそのひとはもういないのです。

 わたしが初めて担当したクラス(宇佐美クラスから独立した)の卒業生の境澤邦泰さんがやっているアートトレイス出版では、林道郎さん、松浦寿夫さん責任編集で宇佐美圭司特集を企画し、ただ今編集作業中と聞きました。そこには宇佐美さんの長時間インタヴューが載るとのこと、その出版を待ちわびるとともに宇佐美さんのご冥福を心よりお祈りしたいと思います。