7月3日アートコミュニケーションゼミはピーター・マクドナルドのプレゼンテーション。ピーターは1973年東京生まれで、現在はロンドンが活動拠点である。最近の仕事ではロンドン地下鉄の巨大な壁画を描いたことで話題になったアーティストである。日本には年に2、3回来るということで、今回はAITのプログラムで来日したところをスタッフの池田哲さんから紹介してもらい、作品のプレゼンテーションを行うことを了承してもらった。
会ってみるとものすごい好青年、こどもの頃日本で育ったということもあり、流暢な日本語を話すが、この授業は英語でするということを了解してもらった。
彼の作品は絵の登場する人の頭が風船のようにふくらんで、しかもそれが透明になっているのが特徴だ。彼はコミュニケーションをテーマのひとつとしているが、頭のなかで人が考えていることがそのまま絵に出てきているのが特徴だ。おもしろいのは透明な大きい頭のなかに考えている事が描かれ、それが実際に描かれている絵や彫刻と同列に並んでいる事である。
想像とつくられたもの、あるいは現実が一緒に描いてあるような絵をつくっている。(図参照)
日本にいた幼少の頃、アンパンマンが好きだったという彼は、マンガよりはそうしたテレビのこどもアニメの影響のほうが大きかったと言う。そういえばこどもアニメの世界はとても不自然にまわりの街や部屋が彩色されている。しかもそこに陰影はなく平面的である。これはすごく特徴的なところで、なかなか私たちには気がつかないところなのかもしれない。
その影響はどれほどのものかわからないが、ピーターがそれを彼の絵の世界のものとして確立したことに興味をもった。一見こどもが描くような単純でストレートな世界のように見えながら、そこに人間の思ったことや考えが具体化されて絵になっている。主人公はまぎれもなくこの人間たちであり、その存在の不思議さなのである。そこに彼はコミュニケーションの重要さを見ているのだろう。最後のところで人間を見ているところが大きな特徴で、その見方はまるで地球を知らない宇宙人のような目なのだ。このような見方もあり得るという、これがロンドンでの受容の多様性というものなのだろう。
ピーターの世界はわかりやすく楽しい。その楽しさは私たち日本人が気がつかないおもしろさを彼独特の想像力で掘り起こしている点にあると言ってもいいかもしれない。私たちの日頃の振る舞いや日常には不可解さと不思議さが詰まっているのだ。