岩崎由実「スチール」

岩崎由実「スチール」

油絵研究室スタッフ研究発表展#5

「スチール」      岩﨑 由実 | Yumi Iwasaki

2017年12/4 (Mon) – 12/14(Thu)   11:00 – 17:00

会場:2号館1階FAL

とてもいい展示になっています。以下、展覧会に寄せた私のコメントです。

 油絵の具で絵を描こうとするとき、どうしても突き当たる問題があり、それはその物質性の問題であったり、風土の問題であったりして、そのまま西洋絵画の技法を応用しようとしてもうまくいかない。

 岩崎は生キャンバスに膠をひき、その上に油彩を半ばつけ、半ばしみ込ませるように絵をつくっていく。それは足し算と引き算をあわせたような絵具の重ねになるが、そこから生み出される一見弱々しい影と光のあり方を肯定的に認めていこうとする方向は今までの絵画になかったものだ。

 その絵には、かつて北斎が西洋画の影響を受けて陰影表現を肉筆浮世絵でやろうとしたことや、日本に油彩画が入ってきた時代の日本画とも油彩画とも判断しがたい“絵の始まり”への興味が見てとれる。つくる側からのそうした美術史の再発見、再解釈の試みはじつはまだ日が浅い。

 谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」は日本人の陰翳に対する感覚の豊かさを称揚しているが、彼女の陰影や光の表現もそうした伝統を引き継いでいる。その絵の中の光とは、闇や暗がりと微妙なバランスを保ちながら存在する光であって、西洋絵画の基本にあるキアロスクーロ(明暗法)から来る強い光や影とはおよそ違っている。

 強い光への志向が一方で科学の発展をもたらし、他方で逆のマイナス面をもたらしてしまったことは否定できないところだが、ともかくも彼女の絵の光はその反対をいっている。そうした感受性を自分たちのものにしようとする模索は、世界のなかで私たちの美術がどのような位置を占めるのか、主張することにほかならない。(ながさわひでゆき)