C通信31.-不死の時代、あるいは死ねない時代 Immortal era

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万年あとの記憶Ⅱ、 多くのひとが永遠の生を夢見た「不死の時代」は到来しなかったが「死ねない時代」はやってきた。「死ねない時代」とは、そもそも死というものが意識されなくなり、自分が死んでいるか生きているのかさえもわからなくなる時代のことである。そして現実にひとは簡単に死ねなくなった。 車の自動運転がスマートシティを呼び寄せ、度重なるウイルス禍の隔離生活でそれは一気にひろまった。テレワーク、監視カメラ、AIによる顔認識、データベースに集められた膨大な個人情報によって私権は制限さ…

C通信30.- 死者 DEAD

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   百年あとの記憶 11.3.2111 100年もの時間が過ぎ去った。その間、さまざまなできごとや災害が起こったが、なかでも忘れることのできないできごとは2011年3月11日に起こった大津波による大川小学校の小学生らの死と、2019年、20年から世界的な感染爆発が続いたコロナウイルス禍である。 できごとの記憶をたどるために、おれたちはまた塔のある場所に行った。ひときわ大きな2011の塔。そのまわりを多くの死者が取り囲んでいた。やがて死者たちは無言のままゆっくりと歩きだし、…

C通信29.-幽霊 GHOSTS

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ひとウサギ…死者のこたつ… そこに入ることを拒まれた…死者になりきれない… そうか、自分らは幽霊なのか…死者のこえを聞き、生者のつぶやきを聞く… 「わたしはここにいてもうすでにここにはいない」 「あなたの目に映ったものをわたしは見ることができる。遠い過去のことや未来のこと、わたしはそこにいないけどわたしはそこにいる」 「そのときの感情の波が押し寄せるとき、いつもそこに幽霊がいる」 「コロナウイルスでいきなり死んでしまった三つ年上の友人のKさん、家族に看取られることもなく苦し…

C通信28.- 肺の街 PNEUMOTROPOLIS

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万年あとの記憶 LUNG CITY 肺の街に着く。この一帯はあらゆる人工臓器をつくる街が広がっているが、この肺の街はそのなかでも最も重要なものだ。    肺の前身はエラであった。生物が海から出て陸地で暮らすようになるには、エラと原子肺を持った生物の数百万年にも及ぶ波打ち際での試行があり、その過程で多くの生命も失われた。あるものはそうしたなかで陸地で生きることに適応し始め、あるものはまた海に帰っていった。やがて陸で生きるようになった生物はエ…

C通信27.- ラスコーのはらわた A trail of entrails in Lascaux

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今から1万7千年も前のこと、ラスコーの洞窟壁画を描いた人たちは未来のことを想像しただろうか?人間が手術によって腸(はらわた)をさらけ出される目にあったり、またひとが自らのからだを自ら停止させてしまうことを思い描いただろうか? 否…けれども生とともに死は身近にあった。 「井戸状の空間」に展開された「絵」は過去の図であるとともに、どこか遠い宇宙の惑星の光景のようにも見える。時間はループする。野獣に襲われるグラディエーターの図が、現代のコロナウイルスによって襲われる貧困層のひとび…

C通信26.-イノシシ Wild boar

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…ところで今は前夜だ。流れ入るすべての生気と真の情愛を受け入れよう。あけぼのとともに、おれたちは、燃え上がる忍耐で武装して、輝く町へ入ってゆくだろう…A・ランボー「地獄の季節」から

C通信25.-からだを失う Lost body

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 そうしておれたちはいつしか次元を超えて別の世界にたどりつく。オリヅルが2次元と3次元を行き来するように、人間は折り畳まれて3次元世界から多次元世界に行ってもとどおりになる。いやもとどおりにはならないだろう。不自由なからだはそこから新たなからだを見つけ出す。 マイヨールの死を知らせてくれたTはこう語る。「水槽(湯船)に頭を突っ込まされるんです…彼女はつぶやきながらぼくの頭を強い力で押え続ける。ものすごく苦しいところまでいって、ようやく手を離してくれる。そのとたん、ぼくはぷわ…

C通信24.- File No.22 12 2001 Death of Jacques Mayol

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ジャック・マイヨールが死んだのは2001年の12月22日のことである。当時ローマに住んでいた私のところに、日本の友人のTから電話がかかってきて、マイヨールが自宅で首を吊って死んだと知らせてくれた。予想せぬできごとに驚き、ショックを受けた。素潜りの世界を少しでも知っている人なら、誰しも「あのマイヨールがどうして?」とつぶやいてしまうくらい、にわかには信じがたい事件だった。 彼は生と死の境界線すれすれにいた人だった。深さ60mもの無呼吸潜水自体が想像を絶するが、1976年には…

C通信23.-遠い惑星からの手紙 Letter from a distant planet 

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1000年あとの記憶(遠い惑星からの手紙) 宇宙船「オリヅル」号はいま中継の惑星に到着し、異星人の出迎えを受けています。母船には人間数名と多数のアンドロイドが乗船していましたが、人間はすべて発狂してしまいました。そのなかでも日本人乗組員は発狂するのが遅く、植物的な体質だとか、順応しやすいのが原因とか言われましたが、最終的には他に遅れること数年で、やはり発狂してしまいました。 もっともこれは予定通りのことだったようです。この場合の“人間”も“発狂”も地球上の基準だったのです。…

C通信22.- Android, Cyborg, Human

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