1938年から今にやってきた


その写真は古本屋の片隅の箱に入れられていた。1938年何月何日の撮影と記されているが、どうしてそれが古本屋の店頭に売り物としておかれるようになったかはわからない。そのひとが1938年からここにやってきたように思った私はそれを買い求め、絵に描いた。描いたと言ってもそこに点状のえのぐのタッチを置いていったのでその写真像は半ば消され、半ば浮き出るような状態になった。これが2019年のことで、それ以降絵が描けなくなっていった。
Covid-19のパンデミックが始まっていた。これはわたしたちがはじめて体験する文明存続の危機のようなものであり、こういう時に絵を描いている場合じゃないと思い、同時に絵に対する関心も失っていった。それはいったいなぜなのだろう?
ウィルスの蔓延のせいなのか?それとも単に自分の絵を展開できなくなったからなのか?年齢による体力の衰え?気力の衰え?
絵はもうおもしろくない。 キャンバスとえのぐを処分し、歌を忘れたカナリヤは捨てるしかないとも考えたが、自分がカナリアになることが一番おそろしかった ・・つづく>