C通信93 : マイロナイト Mylonite

C通信93 : マイロナイト Mylonite

第三章 マイロナイト

ネクロポリの死者から見たら岩石も生きている。生者から見れば無生物、ただの岩石でしかないものがまるで人のように生きていてその存在の光を放っている。

マイロナイト岩石は断層のなかで生きてきた。地上から10キロメートルから15キロメートルの深い地中のなか、300度を超える高温、高圧のなかでその一部の鉱物が再結晶しながら流動してこの岩石が誕生する。

もともとは花崗岩ではあるが高温と凄まじい圧力でそれに含まれる石英などが細かい粒子としてずれて伸ばされる。大きなかたまりと小さな斑点状の細粒石英がちりばめられているのがこのマイロナイトのボディーの特徴だ。岩石はもの言わず、そのボディーに生きてきた地層とはるかな時間を表す。それに比べれば地上の生命の環境と時間ははかなくもろく、短い。

アセファル宇宙人は長野県の鹿塩というところでこのマイロナイト岩石と遭遇した。

この両者を引き合わせたのは何といっても前者のかたちの無さと、後者の塑性変形というかたちの特異さとの対称性だろう。アセファルはかたちがなく、地球では着ぐるみキャラクターのなかでかろうじてその存在を保っってきたが、一方のマイロナイト岩石は、連続した圧力による塑性変形をもつ、かたちを凝縮したような存在である。アセファルは地球人の墓石へのこだわりを見るうちに石の魅力に取り付かれ、神戸の御影石に憧れ、石になることを決意した。岩石の露頭を廻り、それぞれの岩石の風貌を見るうちにこのマイロナイト岩石に惚れ込んだ。あまりの美しい風貌に見とれ、もしもかたちをとることが可能ならば、着ぐるみから出てマイロナイトのようになりたいと思った。そして宇宙では石だ!と思った。           「この惑星に生者がいなくなっても死者はいる」(C通信71)と言うときの死者とは目には見えない存在である。地球では死者はかたちを失う。アセファルはそこに自分との共通点を見、ひとつの突破口を考えた。死者としてマイロナイト岩石と出会うことである。そうして出会いが実現した。