「コノ チョウノ ナマエ オシエテ・・・サイキック(Psychic)とプシュケー(Psyche)」

「コノ チョウノ ナマエ オシエテ・・・サイキック(Psychic)とプシュケー(Psyche)」

2012年11月11日

「コノ チョウノ ナマエ オシエテ・・・サイキック(Psychic)とプシュケー(Psyche)」

図1、蝶の写真

この蝶は今年の夏前に庭の木に止まっていました。(図1)

 まだ朝も早く、じっとして動かなかったので羽化したてのように見えました。羽が顔のように見え、それがこちらを見て“描いて”と言っているような気がしたので思わずカメラを持ち出し写真を撮り、プリントアウトしてからペンでその姿を追いました。そうして出来上がったところにヴェラスケスの「マルガリータ王女」の顔を鉛筆でかぶせたのです。(図2)

図2、長沢秀之、心霊線画

 少し前にこの絵の顔をのぞいた衣装部分を模写し、その上に点をつけた絵(図3)をつくっていたので、顔はどこかで別に描いてやらねば、と考えていたのでそうしたのだと思います。これらの線画は既に相当数があり、心霊線画と勝手に名付けていたのですが、そのとき、英語に訳すと何になるかを見てみるとPsychicという言葉が目に飛び込んできました。それは辞書によれば、霊魂の、精神の、心霊の、心霊現象の、心霊作用を受けやすい、などの意味があり、名詞としては巫女、霊媒、の意味があります。それはぴったりでした。

 ところがその少し上に目をやったとき、もっとびっくりすることばがあったのです。

Psycheです。英語読みでサイキー、ギリシャ神話でのプシュケーです。

 その意味は『霊魂の人格化で蝶の羽をつけた美少女』とありました。さらにネットで見ると『ギリシャ神話に出てくる美女(人間)。魂の象徴、化身とされ絵画などでは蝶の羽を持つ少女の姿で描かれている。元々この言葉にはギリシャ語で、魂、心という意味がある。
 彼女はある小国の三人の王女の末娘でその美しさは評判だったが、それが美の女神アフロディーテを嫉妬させてしまう。アフロディーテは息子の愛の神エロスに命じプシュケーを醜い化物と結婚させるように仕向けさせた。・・』(FF11用語辞典より)などとありその後のプシュケーとエロスの物語も書いてありました。私は単に蝶に王女の顔を重ねただけなのにそれがプシュケーの物語まで連れてってしまいました。こういうことは絵をかいているとき、たびたび起こるような気がします。多分絵は早いのだと思います。こちらが思考するよりも早いのです。

図3、長沢秀之「マルガリータ王女と点」

もっとも私自身、ゆっくり飛ぶ蝶や蛾やトンボなどに何かこの世ならぬ気配を感じる傾向があるのかもしれません。白い大きな蛾が窓などに止まっているとそれは何かの使いのような気がして思わず手を合わせてしまいます。そうするとその次の日かなにかにいいことが起こったりします。

 また昨年のことですがこんなことがありました。お羽黒蜻蛉(図4)という黒い翅をもったゆっくりした飛び方のトンボがいるのですが、最近ではあまり見かけなくなりました。警戒心も強く、近づこうとするとすぐ逃げてしまいます。昨年の8月に母が死んでその骨壺を妻がもって車に乗ろうとすると、どこからともなくお羽黒蜻蛉が現れ骨壺をもった妻の頭の帽子に止まり逃げようともしません。車の中に入るとやはりついてきます。これは確かに母の霊魂なのだと確信しました。あるいは私たちふたりがそのとき死者の域に入っていってしまったのでしょうか?

 ゆっくりゆっくりと翅を広げまた閉じては広げる、そうしたことを繰り返し、やがてお羽黒蜻蛉は空へ飛び立っていきました。

図4、お羽黒蜻蛉

 死者の骨のまわりをめぐるお羽黒蜻蛉、プシュケーほどの派手さはありませんが地味なシブさがあると思います。でも絵にするのはまだ難しそうです。

 サイキックからプシュケーにいき、また霊魂まで戻ってきてしまいました。この話は「心霊線画」の展示まで、まだまだ続いていきます。