C通信38.- 目のなかの津波 TSUNAMI in the eye of the DEAD

C通信

最後に見たもの、死者の目のなかにある風景。見ているものでもなく、記憶でもなく…それは、“とき”を刻んで止まった時計のように目のなかに刻まれる。なぜならからだがあるからだ。死者はからだで風景をつくる。 「夫は毛布を持ち上げました。すると、うなずきながら担当者の男の人に何か言いました。それを見たとき、わたしは思ったんです。なんのためにうなずいているの?うなずかないで。お願いだからうなづかないで。近づかないように言われていましたが、わたしはすぐに駆け寄りました。千聖がそこにいまし…

C通信37.- 記憶の層 Future collage of past occurrence

C通信

できごとの層はときに偶然、上書きされて今に届く。過去の写真が水害でよごれ、消えかけながらここにあるように。それは人間だけのものではない地の記憶でもある。記憶の層は人を巻き込みながら地の記憶を呼び覚まし、眼の前に現れる。記憶はうしろではなくまえにあらわれる。  

C通信36.- 走る Run

C通信

  おれたちはキートンのように走りまくった。空気を体に感じるために、ひたすら走った。そうすると目の前に過去が現われ、後ろに未来が遠ざかっていった。 ドローイング(キートンの「セブン・チャンス」から) 動物は管を横にして(地と平行にして)走る。獲物を捕るために。植物は管を垂直にして太陽と地球を結び、光合成の光を得る。人間の走る行為は、そのどちらでもない斜めのベクトルを描く。

C通信35.-垂直 Vertical

C通信

動物と違い、人間の体を貫く管(口から肛門まで)は地に対して垂直である。植物も垂直に延びている。               そしてロケットも垂直に飛び立つ。 これらの垂直は何を目指しているのか?

C通信34.-解剖図 Anatomical drawing

C通信

1774年、小田野直武は「解体新書」の木版付図の下絵を描く。秋田蘭画の代表作「不忍池図」で知られるあの直武である。「解体新書」は原著の「Anatomiche Tabellen」(解剖図表の意)を杉田玄白、前野良沢らが翻訳したものであるが、俗称で「ターヘル・アナトミア」と呼ばれた。 平賀源内の意を受けて、直武はこの解剖図の写しをやることになったが、もともとは銅版画による図譜である。それを彼は面相筆で丹念に写し取って木版の下絵をつくった。ひとつひとつの線や図に、今まで知らなかっ…

C通信33.-ロケット Rocket

C通信

Rocket 2200     2200年に打ち上げられたロケットが17000年前のラスコーの洞窟に描かれていた。 未来とは曖昧な過去のことである。

C通信32.-宇宙飛行士のミイラ、ラスコーのロケット Time capsule astronaut mummies

C通信

カプセル状の物体に包まれたミイラは、短いスパンの時代のなかでは「古代文化の遺産」とされたが、千年万年という時間のなかでは、地球から出発して再び帰還した宇宙飛行士のミイラであることが定説となった。23で触れた宇宙船「オリヅル号」の乗組員であることがわかったのも、巻いてあった布に付着していたDNAの分析からだった。この時代はまだ宇宙飛行士は肉体を持っていたのである。だから死が厳然としてあり、ミイラになることもできた。それから数千年も経った時代の飛行士は肉体がなかったからミイラに…

C通信31.-不死の時代、あるいは死ねない時代 Immortal era

C通信

万年あとの記憶Ⅱ、 多くのひとが永遠の生を夢見た「不死の時代」は到来しなかったが「死ねない時代」はやってきた。「死ねない時代」とは、そもそも死というものが意識されなくなり、自分が死んでいるか生きているのかさえもわからなくなる時代のことである。そして現実にひとは簡単に死ねなくなった。 車の自動運転がスマートシティを呼び寄せ、度重なるウイルス禍の隔離生活でそれは一気にひろまった。テレワーク、監視カメラ、AIによる顔認識、データベースに集められた膨大な個人情報によって私権は制限さ…

C通信30.- 死者 DEAD

C通信

   百年あとの記憶 11.3.2111 100年もの時間が過ぎ去った。その間、さまざまなできごとや災害が起こったが、なかでも忘れることのできないできごとは2011年3月11日に起こった大津波による大川小学校の小学生らの死と、2019年、20年から世界的な感染爆発が続いたコロナウイルス禍である。 できごとの記憶をたどるために、おれたちはまた塔のある場所に行った。ひときわ大きな2011の塔。そのまわりを多くの死者が取り囲んでいた。やがて死者たちは無言のままゆっくりと歩きだし、…

C通信29.-幽霊 GHOSTS

C通信

ひとウサギ…死者のこたつ… そこに入ることを拒まれた…死者になりきれない… そうか、自分らは幽霊なのか…死者のこえを聞き、生者のつぶやきを聞く… 「わたしはここにいてもうすでにここにはいない」 「あなたの目に映ったものをわたしは見ることができる。遠い過去のことや未来のこと、わたしはそこにいないけどわたしはそこにいる」 「そのときの感情の波が押し寄せるとき、いつもそこに幽霊がいる」 「コロナウイルスでいきなり死んでしまった三つ年上の友人のKさん、家族に看取られることもなく苦し…